平成9年度に「津軽海峡及び周辺地域のムダマハギ型漁船コレクション」67隻が重要有形民俗文化財の指定を受けました。このコレクションは、収集した木造漁船111隻の中から、ムダマハギとその関連漁船を選択したものです。漁船資料の収集が開始されたのは平成7年度で、筆者はこの事業の企画段階から参画し、文化庁伝統文化課の指導を得ながら、収集方針や資料整理に各種の協力を行ってきました。ここでは今回指定された「ムダマハギ型漁船」についてその概要を紹介します。
漁船の収集範囲は、ムダマハギ型漁船の分布する地域と一応の目安としました。これまでの調査やその報告(※1)を参考に日本海側は秋田県北部の能代市以北、太平洋側は岩手県北部の久慈市以北(※2)とし、北海道は道全域にムダマハギ型漁船が分布していますが、津軽海峡沿岸を中心とした渡島半島南部にとどめました。
青森県立郷土館で、昭和56年度から58年度にかけて実施した漁労用和船の調査に際し、各地で「10年遅かった」という声が聞かれました。それからさらに10年以上を経過し、今回の調査収集でも、前回と同様の言葉と、急激な木造漁船の減少を目の当たりにしました。漁港、護岸、船揚場の整備と、漁港区域の環境整備による廃船処理の指導が、使わずに放置されていた古い木造漁船の消滅に拍車をかけました。特にムダマハギ型漁船にその傾向が強く、秋田県北部、青森県津軽半島東北部などでは、船種によってはほとんど消滅寸前の状況にありました。収集活動が少し遅ければ、収集不能となったものが少なくなかったといえます。
しかし、地域によっては、現在でも比較的良く残されている地域もありました。しかしこうした地域では、現在も稼働中のものがほとんどで、逆に収集は困難となりました。そのため使用中の漁船については、後日の提供を依頼しています。この結果、この企画に賛同する漁師の方々や漁業協同組合等から文化財指定時点で111隻(現在は120隻を越えている)木造漁船の寄贈がありました。これらは、清掃、修理、写真撮影、実測図面作成等の作業を行った後、青森市内に建設した仮収蔵庫に地域ごとに分類収蔵し、現在は博物館にて展示されています。
船の発達過程はこれまでの研究により、一木で構成された丸木船から板合わせの構造船に順次変化し、その過渡的段階の構造として、刳り抜き材と板材を合わせた準構造船ともいうべきオモキ造りの存在が明らかにされています。オモキ造りとしては北陸地方のドブネ、山陰地方のソリコ、モロタ、トモドなどが知られ、それぞれ文化財として保護され、詳細な調査報告もなされています。オモキ造りは、漁船のみならず、弁材船の普及に先行して日本海を航行した、北国船、羽賀瀬船など北日本海域の荷船に用いられた構造であり、日本の船舶発達史を研究する上で重要なものです。
これまでムダマハギ型漁船の保存は、一部を除いて手つかずの状態でした。本コレクションの重要民俗文化財指定と、それを中核としたみちのく北方漁船博物館は、こうした状況を打破し、漁船を中心とする和船研究における、基礎資料の保存と活用に大きく貢献するものであります。文化財指定後も、函館市や青森県六ヶ所村泊、西津軽郡深浦町で、現地の船大工に依頼して、船外機普及以前の木造漁船を復元製作する事業を進めています。これは、実物資料とともに、製作技術の記録保存を図ることを目的としています。この事業は、今後も継続して実施される予定であり、これまで収集されたコレクションとともに和船研究の基礎資料として、今後大いに活用されることを願うものであります。


北海道からの搬入状況 保管状況




(※1) 青森県立郷土館『青森県の漁労用和船』1985
昆政明「技術文化」『福島町の社会と民俗』北海道みんぞく文化研究会1988
同上「1. 県北の船」『秋田県の木造船』秋田県教育委員会1995
同上「銭亀沢の生産労働」『函館市史銭亀沢編』函館市1998など。
(※2) 田中幹夫氏(新潟大学)より、岩手県田老町にムダマとクルマガイの存在を、ご教示いただいていたが、現地調査の機会がなかった。また、出口晶子『日本と周辺アジアの伝統的船舶』文献出版1995には同地のムダマ型漁船としてカッコの記載がある。追加調査と収集を検討したい。