「ムダマハギ型漁船の運用技術に関する記録保存及び公開事業」(平成15年度 日本財団助成事業)

今回は、平成13〜14年度に行なった、「ムダマハギ型漁船建造技術の記録保存および公開事業」で製作した、無動力時代(船外機搭載以前)の船型の船を使用して、運用(操船・漁労)に関する技術を記録しました。
この事業は、近年急速に失われつつある、日本古来の木造漁船の操船や漁労に関する運用技術を記録保存し、展示や教育普及活動を通して和船に関する知識の普及を計ることを目的としています。
活動は、ムダマハギ型漁船の主な推進具の使用方法について調査し、構成原案を作成するところから始まりました。それを基に、具体的な撮影場所、協力者(漁師)、撮影日について検討し、結果、基本的な「操船方法」の撮影については、青森市後潟の漁師さんにご協力いただき、当館隣の海で、天候や波の状態の良い夏季に行うことに決定しました。また「漁労方法」の撮影については、津軽海峡に面した青森県下北郡風間浦村下風呂で、アワビ漁の解禁を待って行うことに決定しました。

「操船方法」の撮影
撮影は、当館隣の海(旧沖館漁港)で8月27〜29日に行いました。ご協力いただいたのは、青森市後潟のベテラン漁師さん5人です。


工藤正利<まさとし>さん
(大正9年生まれ)

工藤政徳<まさのり>さん
(昭和3年生まれ)

森内直広<なおひろ>さん
(昭和5年生まれ)

工藤雪松<ゆきまつ>さん
(昭和11年生まれ)

森内秀麿<ひでまろ>さん
(昭和8年生まれ)
 

ムダマハギ型漁船の基本となる推進具である櫂(クルマガイ、ネリガイ)、櫓、帆による操船を、漁師さんに実演していただき、漁師さんの船に、カメラマンが同乗して手の動きを撮ったり、展望台や防波堤などを利用して、様々な角度、方向から記録しました。また、長距離の移動となる帆走の場合は、別の船で伴走して撮影しました。

漁の実演。1人がクルマガイで操船し、1人が箱メガネを覗いてとります。

クルマガイ

クルマガイと櫓
帆走

「漁労方法」の撮影〜下風呂〜
風間浦村下風呂は、現在も100隻程の磯船がいっせいに操業する姿が見られる地域です。木造船は、FRP船にとってかわられ、その数は2〜3隻ほどに減ったものの、大事に手入れして乗る漁師が未だいます。
11〜2月頃に行われるアワビ漁では、クチアケの日(解禁日)となると、各浜から次々に磯船が出漁します。
下風呂は、津軽海峡に面した風間浦村の中でも地形的に突端にあることから、西風の影響を受けやすく、「なぎの日」が少ないといわれますが、潮の流れが速いため、広範囲に広がる荒い岩礁には身のしまった良質のアワビが豊富に育ちます。これらは全て干鮑として中国や台湾等に出荷されています。


この地域では、アワビは三本ヤスという漁具でとります。身は傷つけないように気をつけて、殻ごと内臓を突き刺して瞬間的に活じめします。この漁法は、干鮑用に出荷する地域―青森県内では、風間浦村下風呂・蛇浦・易国間、大畑町等―で見られますが、活アワビとして出荷する地域では行われなくなりました。カギという漁具で引っ掛けてとったり、船を使わずに素潜りでとる地域もあります。
クチアケの日(解禁日)は、当日の朝6時〜半頃に漁業協同組合の職員が、天候、波の状態、海のにごりなどを見て決定します。また前回の漁から最低3日以上経過していることが条件となります。アワビが岩場に隠れてしまうからです。出漁が決まると、村の防災無線で下風呂内の6箇所の船上げ場へ知らせます。漁師は、その合図を聞くと、船を出して漁場を探索します。箱メガネで海底を覗いてアワビを探し、あとは突くばかりの状態で待機します。7時半頃、「旗揚げ指揮者」の漁師が旗を揚げて漁の開始を告げると、海上に待機していた船がいっせいに漁を始めます。終了は、通常11時半頃で、この時も旗が揚がります。獲ったアワビは殻をはずし、むき身の状態で干鮑の加工業者に出荷します。
この地域のアワビ漁は、通常11月に始まり、事前に組合が定めた予定数量を満たすまで行われます。例年7〜8回の出漁が普通で、1月から2月くらいまでに終了します。15年度の下風呂の予定数量(むき身の重量)は、大200L、小1000Lで、1月で満たして終了しています。
撮影は、青森市から機材を持って出動しましたが、下風呂までは車で約3時間。朝の判断を待って出発したのでは間に合わないため、漁協の方に天気予報や前日の海の状態等を見て判断していただき、出漁の可能性が高いとなると、前夜から現地入りして待機しました。しかし、当日の判断で、出漁できないことが何度か続き、ようやく撮影することができたのは12月17日でした。漁協の坪 誠さんには大変お世話になりました。

さて、現在、ほとんどの磯船には船外機が付き、下風呂でも、手漕ぎで漁をする漁師はいなくなりました。漁労時に、船を細かく移動させる方法として、昔ながらの推進具「クルマガイ」を使う漁師はいますが、その数は10〜15人程と少なくなり、60歳以上の高齢の漁師がほとんどです。
1人の漁労方法は、ガラス(箱メガネ)を口にくわえて海底を覗き、手と足でクルマガイを操作して船を動かし、えものをとります。これは大変難しく、熟練の技を要します。今回は、69歳のベテラン漁師、伝法恭治(でんぼうきょうじ)さんにご協力いただき、北日本地域独特のクルマガイによる漁を実演していただきました。伝法さんは、FRP船が主流となった現在も、木造船を使いつづける数少ない漁師の1人で、この船は平成3年に新造した船です。


これらの映像や調査結果は、CD-ROMとイラスト中心の解説本「ムダマハギで海に出よう〜和船の操船技術〜」にまとめ、ビデオも製作しました。

 

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